新プロジェクト「紙工視点」って、結局なに?:
ディレクター・岡崎智弘さんインタビュー
「紙工通信」の紙工視点特集、今回は「紙工視点」のディレクター、岡崎智弘さんのインタビューです。岡崎さんは、グラフィックデザイナーであり、コマ撮りの映像作家でもあります。代表作は、NHK教育テレビジョンで放送中の『デザインあ』の中の「解散!」シリーズ。
「紙工視点」では、強い好奇心を持ちながら、深い洞察力でプロセスを見つめ、ディレクターとして、プロジェクトを引っ張ってきました。そもそも「紙工視点」という不思議なタイトルのプロジェクトは、どのような発想で生まれたのか?「視点」って、どんなものなのか?じっくり聞きました。
岡崎さんの事務所「SWIMMING」にて。
―今回、紙工視点を立ち上げるにあたって、どこから考え始めたんですか?
岡崎智弘(以下、岡崎) 福永紙工さんから「何か新しい、紙のプロジェクトを」と、相談されたのがきっかけです。でも、紙って、ずーっとある素材じゃないですか。活版印刷だったり、日本にも絵巻物があったり。基本的なメディアとして、ずっと使われてきました。歴史上ものすごく、ベーシックなエレメントですよね。
―たしかに、パピルスの時代からありますからね。
岡崎 メディアとして使われてきた紙だけど、最近では、デザイナーと一緒に作るような、プロダクトの企画も多いです。福永紙工の「かみの工作所」もそうだし、他にもいろいろあります。だから、単純に紙を使ってプロダクトを作るプロジェクトは、もう十分じゃないかな?と思ったんです。もちろん、まだ可能性はあるんですけれど、当たり前化してるな、って。そもそも、紙の歴史がすごく長いので。
―でも「紙」を使うことは、決まっていました。
岡崎 だから、「紙に対する人の視点」が、むしろ大事だと思い始めたんです。これは、紙工視点の基本コンセプトでもあります。紙って、あまりに当たり前にあるから、案外みんな、それ自体のことは、考えていない。だから、そこに、意識的に向き合うことが大切なんじゃないかと。
「テラダモケイピクチャーズ」は、渋谷スクランブル交差点や田植え風景、満員電車などの、日常の風景を、紙である「テラダモケイ」で緻密に再現するシリーズ。映像制作は、岡崎さんが担当。それぞれの状況と、紙らしさの観察により、動作が決まっていく。
―「紙工視点」において、「視点」は本当に重要なキーワードですね。プロジェクトの話に入る前に、まず、岡崎さんの考える「視点」がなにか、教えてもらえますか?
岡崎 視点というのは、その人が見ている世界そのものです。その人の生き方そのもの、でもあるかもしれない。視点のいいところは、デザイナーじゃなくても、誰でも持っていること。高尚なものでは、全くありません。
―たしかに。誰にでも、視点はありますね。
岡崎 うん。しかも、一人につき、一つの視点、というわけではなくて、成長して変わることも、新しく手に入れることもあると思います。ポスターとか、アート作品とか、なんでもいいのだけど、何かを見たときに「こんな見方があったんだ!」と驚くことって、あるじゃないですか。それって、純粋な喜びだと思うんです。そして、そこの発端にあるのは「誰かが見た世界」なんです。
―それでは、デザイナーにとっての「視点」ってなんでしょうか?
岡崎 ものづくりの手前の部分、だと思います。デザインを考えたり、作ったりするうえで、一番基本にあるのは「いかに世界を観るか」。どう立体を作るか?とか、どう素材を使うか?とかの前段階の、プロセスの根源的な部分です。
―デザインの最初にあるのが、視点なんですね。
岡崎 みんな、デザインには専門性が必要だと思っているけれど、視点には何もいりません。だから、他の人とも共有できます。「そういう紙の見方があったのか」って。視点は、誰もが使える道具みたいなものだと思っています。もちろん、紙工視点でも製品は作りますが、その物としての価値と同じように、デザイナーがどのように紙を捉えたか、も伝えたい。とても抽象的な枠組みだから、3年くらい続けないとわからないんじゃないかと、個人的には思いますけど(笑)
福永紙工とペーパークラフト作家、和田恭侑さんとの恊働プロジェクト「gu-pa」のグラフィックデザインは、岡崎さんが担当しています。それぞれの動物に合った質感の素材の、ペーパークラフトです。https://www.fukunaga-print.co.jp/gu-pa/
―今回のメンバーはどのように決まったんですか?
岡崎 3人共、紙という存在と混ざったときに、どうなっちゃうか分からないと思ったから、お願いしました。想像もつかないようなことを、考えてくれそうな人たちです。全員女性になったのは、本当に偶然なんですけれど。
―この枠組で取り組んでみて、どうでしたか?
岡崎 途中は、全然まとまらないんじゃないかなって思っていたんですが、ちゃんとモノになっていきました。その人その人の、やり方、考え方、捉え方みたいなものが、露骨に現れたんじゃないかな。作家さんと一緒に仕事すると、その人の制作の仕方を一番近くで見られるのが、面白いんです。
―岡崎さんのディレクションって、基本的に全力肯定ですよね。
岡崎 あ、そうですね。だって、否定する理由がないもん。自分の思っている「正しさ」とか「良さ」っていうのは、ものすごく偏った価値観でしかない。基本的に面白いことは、自分の中じゃなくて、外にあると思っているんです。だから、やっぱりこうやって、何かを一生懸命作ったり、考えたりしている人と一緒に仕事すると、すごく面白い。基本、楽しむ派です。
―楽しむ派。だからか、3人の視点が、すごく引き出された製品になった気がします。
岡崎 プロジェクトの基本的なコンセプトが、そういうことですからね。「それぞれの視点」っていってるのに、ある視点で固定しちゃったら、意味がない。自分にない視点を、楽しんでいました。ベースにあるのは、ここが面白いね、楽しいね、いいね、っていうことですね。
今回のプロジェクトのプロセスを、ヴィジュアルブックにまとめています。校正中です。
―今後、紙工視点をどのように続けていきたいと思いますか?
岡崎 とりあえず、3年くらい続けて、アーカイブをきちんと残していくことが、絶対に重要だと考えています。アウトプットと、同じくらい。その蓄積した視点を、きちんとまとめて公開するときが、いずれ来ると思います。
―新しい学びの材料になりそうですね。
岡崎 ぼんやり思っていることなんですけれど、紙を媒介にすることで、「視点」そのものを、いろんな人同士で楽しむことができるんじゃないかな、と。紙には、メディアとしての機能があるじゃないですか。文化の共有とか、教育とか、そういう側面との結びつきも強い素材だから、人が視点を学ぶための新しい媒体に、なりえるんじゃないかな。金属やガラスじゃなくて、紙だからこそ。
―そこに、なにも書かれていなくても。
岡崎 うん、なにも書かれていないからこそ、そこに「捉え方」を乗せて、人と共有できる、新しい媒体になる。それが、面白そうだなと。できるんじゃないかなって予感が、ちょっとだけ、あるんですよね。
―今回できた感じ、ありますか?
岡崎 いや、まだない(笑)まだないというのは、展示がこれからですからね。このインタビューの時点では、まだ何も完成は見えてないので。これからの、がんばりですね。
国立新美術館地下一階、SFT GALLERYでの展示は、2018年10月17日スタートです。みなさまのお越しをお待ちしております。
取材・構成:角尾 舞
【展示詳細】
[会期]2018年10月17日(水)―12月24日(月)
営業時間:10:00―18:00(金曜、土曜祝日のみ20:00まで営業)
※美術館営業時間に準ずる定休日:毎週火曜日(祝日または休日にあたる場合は営業し、翌日休み)
[場所]国立新美術館B1 スーベニアフロムトーキョー内 SFT GALLERY
〒108-8558 東京都港区六本木7-22-2 国立新美術館B1
TEL 03-6812-9933 FAX 03-5775-4670
https://www.souvenirfromtokyo.jp/gallery
[ギャラリートークイベント]
2018年10月26日(金)18:00―19:30
登壇:荒牧 悠、小玉 文、辰野しずか
進行:岡崎智弘 司会:角尾 舞
※事前申し込みは不要です。当日どなたでもご参加いただけます
※入場無料
※混雑の際はご案内を変更させていただく場合がございますので、ご了承のほどお願いいたします。