「紙工視点(シコウシテン)2022」③
五十嵐瑠衣=空間デザイナー・設計士
手遊びで組んだ「箱」の織りなすかたち
正三角形が連なる紙の展開図を折っていくと、ひし形の箱がいくつも組み上がる。そうしてできたパーツを積み重ねて、鳥をつくったり、結晶のように繋げて、好きな形にしてみる。最初のコツさえつかめば、パーツをつくる感覚がやみつきになるのが「PAPERBIRD」です。でき上がる立体もさまざまで楽しみ方は無限大。無機物と有機物の中間のような紙製プロダクトの秘密を聞きました。
デザイナーの五十嵐瑠衣さん
普段の仕事
――あらためて、今のお仕事でどういうことをやられているのか、具体例を交えて伺っていいでしょうか?
五十嵐:基本的には、展覧会の会場構成や会場設計という役割で仕事をしていることが多いです。会場内の空間をどう扱うか、作品をどう見せるか、どういう空間体験を作るかとか、といったことを考えています。
展覧会によって、参加メンバーも変わってきます。ディレクターさん、作家さん、クリエイターの方々、その時々の関係者たちと「どんなイメージを作りたいか」という話をしながら、それをどうやって実現するか考える役割です。
作業的には「図面を描く」のがメインの仕事なんですけど、その前後の話を繋げていくというか、「こういう風なものを作りたい」というのを聞いて、それを大工さんとか業者さんとか、実際作る人たちにどう作ってもらうかを考える、という役割ですね。
――五十嵐さんは、元々は建築出身で、自然とそういうお仕事になっていったということですよね。
五十嵐:そうです。トラフ建築設計事務所に入って一番最初に担当した仕事が展覧会でした。結局、その繋がりで展覧会の仕事が来るようになって。その間に1つ建築事務所を挟んでいるんですけど、なんだかんだで展覧会の仕事をする機会が多くて。
その事務所から独立した時に、たまたま「展覧会の図面を描きませんか?」という話があって、そのままずっとやり続けているという感じです。
――代表例を3つほど挙げるとしたら、いかがでしょう?
五十嵐:2013年と2018年からの「デザインあ展」は、両方とも参加させていただいています。21_21 DESIGN SIGHT(東京・六本木)でやった最初のほうは、個人としての最初の仕事でもあったので、それは自分にとって重要な仕事だったなと思っています。
「デザインあ展」(21_21 DESIGN SIGHT)/ Photo: MASAYA YOSHIMURA
五十嵐:あとは「谷川俊太郎展」ですね。直近で手がけたもので言うと、「ヨシタケシンスケ展かもしれない」という展覧会もやっています。
「谷川俊太郎展」(東京オペラシティアートギャラリー)/Photo: KIOKU Keizo
「ヨシタケシンスケ展かもしれない」(世田谷文学館)
五十嵐:その間に、いろいろ展覧会のお仕事もいただいて。「原田治展」もいま巡回しています。
最初のオーダーからプロダクトの着想まで
――この「PAPERBIRD」にいたるまでは紆余曲折だったと思いますけど、まず、どのように始まったんですか?
五十嵐:ディレクターの岡崎さんとは何度も一緒に展覧会をやっていました。「デザインあ展」もそうですけど、その後の「デザインの解剖展」も一緒にやって。あとは「虫展」ですね。その後、コロナもあって間が開きながら、3年ぐらいは紙のことを考え続けたのかな。逆に、私にとっては長く考えられたので良かったなと思います。
最初は「楽しいものを作ってください」というリクエストをもらいました。あと、自分の視点というか「普段の仕事で考えていることをベースにして考えてください」という依頼だったんですけど、ふだん、そんなに意識的に考えて仕事をしていなかったので、どこから手をつけていいのか、何をすればいいのかも分からなくて(苦笑)。
――最初は「楽しいものを作ってください」というオーダーだったんですね。
五十嵐:まず「楽しいって何だろう?」ということにハマりそうな感じでした。普段の展覧会だと、とりあえず場所が決まっていて、展示テーマが決まっていて、図面を描き始めながら考えるということができるんですけど、「どうしよう……?」みたいな気持ちになって。
「とりあえず、身近にある紙をどうにかしてみよう」と思い、コピー用紙とかケント紙とか、普段使うトレーシングペーパーとか、段ボールの間に入っている緩衝材とか、そのあたりから触って、どうにか手を動かそうと思ったんです。紙の種類もそんなに知らなかったので「どこまでが紙の範囲なのか?」といった感じでした。
身近な紙で手を動かしていった
――ぼんやりしたゴールというのも見えていなかった?
五十嵐:でも、最初から「平面ではないだろう」と思っていて、「立体にはなるんだろうな」みたいな感覚はあったんです。立体にするには、ある程度の「強度」みたいなところが自然に出てくるので、少なくとも「自重を支えるだけの強度みたいなものをどうしたら出せるか?」ということを、身近な紙で丸めてみるとか、重ねてみるとか、濡らして乾かしてみるとか、そんなことをやって、手遊び的にいっぱい細かい紙をいじっていく、みたいなことをやっていましたね。
それなりに面白い発見とかもあったんですけど、「どういう風に形にするの?」みたいになった時に、「基本はやっぱり『箱』だな」みたいな考えがあって。
――いきなり、そこへたどり着いた。
五十嵐:私は模型をよく作るんですけど、その時と一緒です。形にする時に、基本は「箱をきちんと作る」ということが綺麗にできると、模型も綺麗にできるし「模型で構造的に成立する」ことは、基本的には「実物大になっても成立する」みたいなところがあるんです。紙で同じようなことを考えていて、箱に回帰して考え始めたんですよ。
――最初は、サイコロ状の箱ですか?
五十嵐:サイコロ状の箱も作りつつ、それを変形させていくと、しだいに見え方が変わったり、もうちょっと想像が膨らむなと思って。立方体をちょっとひねった形とか、1辺だけちょっと伸ばした形とか。
さまざまな箱を検討していった
――Y字の箱って、これまで見たことがないです。
五十嵐:これは「中にモノを入れる形」で考えていたんですけど、Yとかだと「何を入れようか?」と考えたりするので「ここにちょっとオマケに何か付けようか?」ということもあるかな、と思ったんです。
それをさらに箱の中に入れて「箱in箱」みたいなると、逆に「この余白の部分に何を入れようか?」みたいなことを考えるだろうとか、この時期はそういう打ち合わせをしていましたね。「フレームの中に入れたら作品みたいに見えちゃうんじゃないか?」とか。
いろんな変形を作っていく中で「ひし形バージョン」みたいな変形が、今のプロダクトの単位となった原型です。その形は、正四面体を2つくっつけた形なんですけど、形として結構、可能性があるんじゃないかなと思って「この形でもう少し考えてみようかな」というのが次のステップになりました。
2つ、3つと繋げた形を作った時に、連続させていくと連結できる、形が繋がるなと思って。これ1つだけだと、とっかかりがないので、繋げることができないんですけど。鋭角な部分ができると、そこをきっかけに繋がっていく。
――なるほど。途中で「繋げる」ということを考えたんですね。
五十嵐:最初に「立体になるだろうな」と思った時に、まずは「大きいものを作れたらいいな」というのが1つありました。ダンボールなどで箱を作ったり。もしくは、「手遊び的なものになるのかな」と思っていて、やっていくうちに1つのユニットを繋げていくと、意外と大きいものになると。最初に想定していたよりは完成品は小さいですけど、手元で作るよりは大きいものができたなと。
――シミュレーションはコンピュータとかでやるのではなく、自ら手作業で?
五十嵐:そうですね。1つのブロックは、サイコロを展開した形をちょっと変形していけばできるので。これは1回CADで描くんです。この1つのブロックをベースにして、それを実際に紙で作ったのを切り貼りして、2連とか3連というのが分かる。「こういう形に繋げたい」とか「もう1個こっちに繋げたい」というのを切って、テープで貼って、それを1回広げて、展開図にして。
その展開図で「ここにこう付けたほうが、形としては整うな」とやっていっても、いざ組み立てると紙がぶつかってうまくいかなかったり。組んでいる状態で「ここに羽を付けるとうまく差し込めるな」という状態で作っても、広げると紙が1枚の中に取れなかったり。それをいろいろ調整しながら、もう1回組んで、開いて、みたいなのを何度かやって。すごくアナログですよ(笑)。
無数の展開図で試行錯誤した
どんな風にプロジェクトが進んだか
――「接着をしないで、折り込んで作っていく」という方針は元々、考えていたことですか?
五十嵐:なるべくシンプルに、ワンアクションでできるものがいいなと思っていました。普段の仕事で何か作るときも、「なるべく手数を減らす」「シンプルな手間でいいものができるといいな」ということを考えています。
あまりいろいろ加工しなくてできるのが理想的です。あと折って差し込むだけで形になるほうが、開いた時に「のりしろ」みたいなものが出てこないので、展開図をパッと見て、どういう立体かが分からなくて面白いかなと(笑)。
――なるほど。中間段階でパーツは7つぐらいの形を検討していて、最終的に絞っていきましたね。
五十嵐:全部で形は3つになりました。あまり増やして複雑にせず、ミニマムな数のシンプルな構成にしたくて。パーツは3つの形状なんですけど小さいものから大きいものまで、サイズを1辺が15ミリ/30ミリ/45ミリ/60ミリと4段階のバリエーションを用意しました。積んだ時に意外な見え方になるので、それが面白いかなと。
――途中の打ち合わせで「結晶化していく感じが面白い」という話をメンバーみんなでしていて、「紙結晶」とかいろいろ名前の案が出ていましたね。
五十嵐:ブロックのサイズを変えて積んでいく、ある単位の繰り返しみたいなものが「結晶ぽいな」と気付いた時、それはそれですごく綺麗だったし、そういう方向はいいなと思いつつ。
――そのあたりで、目玉のシールが出てきていました。わりと早い段階から、生き物にするという着想があった?
五十嵐:いや、途中で出てきたんです(笑)。結晶のように積んでいっても「具体的に何を作りたい」みたいな形にしていくのが難しいだろうな、というのを同時に思っていて。結晶だと、思いがけない積まれ方の面白さはあるんだけど、思ったように積むということは、逆にしにくいと思ったんです。
その時、目玉を貼ると「何かに見立てるのがすごくしやすいな」と思って。「これが顔に見えてくる」とか、「これが顔ということは、ここは足なのか?」とか「ここは尻尾なのか?」というのは、今まで想像していたスケールと違う風に見えてくるんですよね。
――BIRDという姿になったというのは、五十嵐さんの方向性だったんですか?
五十嵐:ディスカッションの結果だったと思います。でも、私もBIRDはいいなと思ったんです。「何でも作れるキット」みたいなのにあまりしたくないなという想いがあって。いろいろ他のものでもそうですけど、「何でもできるもの」って、何にも使われなかったりとか、何もできないことというのもあるので。何か1つできたほうがいい。何でもできるセットを「ハイ、どうぞ」と渡すと、1回手が止まってしまうことがあるので。それで自由に作れる人はそれでもいいんですけど。
「紙工視点2022」ディレクターの岡崎智弘さんと
五十嵐:いったん「こういうのができますよ」というのがあると、「とりあえず何か作ってみようか」というところから、「これを変えると、こういう風にもなる」「こういう作り方、こういう遊び方もできる」という風に繋がっていきます。
そういう意味で、「鳥みたいな形に作ることができますよ」という風に提案できると、あえて「ブロック」と言わなくても、ブロック的な遊びは自然とできるんじゃないかなと思ったんですね。
――なぜ、「鳥」にしたんですか?
五十嵐:鳥じゃなくても、最初に犬に見えたら犬になったかもしれないんですけど(笑)。ただ、その形――顔とかを作った時に、「ひし形がくちばしに似ているな」とか、作った時のフォルムが鳥のイメージに何となく見えてくるな、というのが最初にありました。
鳥って、種類がいろいろいるし、すごいカラフルな鳥もたくさんいるし。空想で好きに作っても「どうにかなるな」みたいなことがありました。あと、名前もいいなと思って。「ぺーパーバード」をカタカナで書くと、全部棒線が間に入る。そういう、ちょっと字面のリズム感もいいなと思って(笑)。
――売り方とか、プロダクトにした時のことを考えていたんですね。
五十嵐:子ども向けにすごく可愛くするとか、そういう感じではないなと思っていて。だけど「あまり真面目すぎてもな」みたいな、そこのバランスをうまく取りたいと思って。難しいので真剣に作らなきゃいけないけど、「ちゃんとどこかにヌケがある」みたいなものにしたいなと思っていました。
――「組み上げる」工程よりも、その前の「パーツを作る」というステップのほうに難しさがありますね。あえて展開図に番号なども振ったりせず。
五十嵐:はい、あまり親切じゃない感じですが、ちょっと悩んでほしかったんです。でも、制作のコツが分かる動画を作りました。次の積み方では「こういう順番でここに積んでいけば鳥になるよ」という絵みたいなものは、一緒に入れておこうかなと思っています。
――紙の色も、すごくこだわって選定していました。
五十嵐:最初、白い紙でずっとやっていたんですけど、それを色紙に変えた時に、全然見え方が変わったんですね。「同じ造形でも、色が違うと全然違って見える」みたいなことがあったので、色の組み合わせはすごく考えました。単体の紙色だけで見ると「ちょっと使いにくそうだな」みたいなものでピンと来なくても、他の色と組み合わせると、それがいいワンポイントになったり。そういう見え方はすごくいいなと思いましたね。
逆に、紙の種類とかにはあまりこだわらず。「折る」という作業が入るので、厚みだけは考えて選んだ感じです。
「紙」という素材への感想
――今回、「紙の難しさ」とか「可能性」、「特性」で発見したことはありましたか?
五十嵐:いつも仕事で紙は使うんですけど、実際に作り上げるものに対して、そんなに「紙を使う」という意識じゃなくて。どちらかと言うと、その準備段階で「図面を描く」という紙の使い方。あとは、「模型を作る」という紙の使い方でした。
――「紙工視点2022」展(東京・立川)の会場構成では、紙を使う計画ですね。
五十嵐:実際、展示に紙を使うとなると、いろいろ制約やルールがあります。紙って、普段は表面の仕上げでは使うんですけど、意外と使う紙の種類が決まっていたりとか。どちらかと言うと、木とか金物とかのほうが自分としては扱い慣れているので、やっぱり紙って難しいなと思いました。
何か印刷するという時は、グラフィックのデザイナーさんがご自身で指定されて、「こういう紙で」というオーダーがあったりするので。そういうのがないと、壁紙的な経師紙(きょうじがみ)などの中で選ぶということになるので、そんなに種類が選べなくて。
なので、紙の種類が豊富だと、かえってすごい難しい。どれを基準に選んでいいのか、みたいなものが自分の中にないので。幅の広さは難しいけど、それが面白いとも思ったし、まずは種類を把握したいです。
紙って、元々色が付いているものがすごく多いので、それがやっぱり面白かったですね。木とか金属って、素材の色そのままになってくると、そこまでカラフルな色とかってないので。結局はそこから色を乗せる作業になるんです。元々色が付いているというのが、すごい新鮮な素材だと思いました。
紙の色と形の組み合わせを検討
――紙に関して、印象に残っている福永紙工とのやり取りはありますか?
五十嵐:自分が分からなさすぎて、逆に「何を聞いていいか分からない」というのが実情でした(苦笑)。質問のポイントをどこに絞って話をしていいのか分からないというか。だから、「もっといろいろ知らなきゃな」と思って、加工の仕方とかも。初めはちゃんと紙についての知識がないままスタートしていましたね。
完成した作品の見どころ
――完成した作品の見どころ、こだわりポイントを挙げるなら?
五十嵐:1つはやっぱり「色」ですね。色違いで2種類の製品があります。
顔が赤い、派手なほうが「スーパーバード」です。これに関しては、色の強さというか、存在感の強さみたいなものを出したいなと思っていて。なので、かなり強い赤を使ったりとか、ちょっと光る光沢のある紙を使っています。
もう1つのほうは「ミミズク」という名前にしているんですけど、ベースは板紙を主に使っています。結構、自然ぽく見えるというか、木っぽい感じに見えるなと思っていて。全体的に茶色系とか、インテリアの中に置いても馴染みやすい色目になっています。
暮らしを華やかにする「スーパーバード」/ Photo:Masaki Ogawa
――「スーパーバード」と「ミミズク」を両方買って混ぜるのもアリですか?
五十嵐:アリだと思います。いったんそのセットになっていますけど、その後の遊び方は自由なので。まるで違う「こういうのができた」とか「もっとかっこいいのができた」とかいうのは、発見してもらえれば、それはそれですごい嬉しいです。
――他のこだわりポイントは。
五十嵐:「紙の性質をうまく使って立体にする」みたいなことが1つのポイントかもしれないです。
結局「木でもいいんじゃないか」とか「金属でもいいんじゃないか」みたいなことになってしまうと、「紙で作る」という意味がなくなってしまうので、紙の性質もちゃんと使って作るほうがいいなと思いました。具体的には、展開図から組み上げる時に「紙のしなり」を使ってはめ込む作業が必要なんです。それは、木の板みたいな硬いものではできないので、紙だからできることだと思います。
――パーツを作るコツはありますか?
五十嵐:コツは、角をちゃんと綺麗に折る、収める。「内側に重なってくる紙」と「外側に見えてくる紙」の形が、どうなっているかというのを想像しながら作る。ピッタリ重なるんですけど、その重なり方とかが、ちゃんと収まっているとよくて――言葉で言うと難しいですけど。「触ると分かる」みたいなところもあるので、その感覚にも気付いてもらえると。
まずは1連のものを組み立てて、それをベースに2連、さらに3連を作っていただく、みたいな展開図の作り方をしています。何となく難易度ががちょっとずつ上がるようにはなっている。いきなり3連から入るとたぶん難しいと思うんですけど、ちょっと難しい「頑張らないとできない」みたいな感じのレベルにはしたくて。
――なぜ、そうしたかったんでしょう。
五十嵐:あまり簡単に作れてしまうのではなく「ちゃんと考えながら作る」という風にしたかったというか。
ただ、作り方の動作としては、似たような動作を入れているので、最初は「入門編とか応用編とかを作ろうか?」という話もあったんですけど、この組み立てを順番にやっていくと、ちゃんと最初はそんなに難しくないものからスタートして、ちょっとずつ難しくなっていくという展開図が結果的にはできました。
それはこだわりというか、ちょっとポイントというか。「難易度」の調整じゃなくて「段階」ができたので良かったかなと。
――組み立てシーンの動画を作ったという話もありましたね。
五十嵐:パッケージにQRコードが付いているので、そこから見られるようにする仕様になっています。
生活空間に溶け込む「ミミズク」/ Photo:Masaki Ogawa
――でき上がったものの、大きさのこだわりってありますか?
五十嵐: 1辺15ミリが一番小さいサイズなんですけど、それより小さいとたぶん組み上げるのがすごい難しくなっちゃう。たぶん15ミリでも難しい人もいるかもしれないですけど、組み立てられるギリギリのサイズ。全体のサイズ的には「このぐらいがちょうどいいな」みたいな。しっかりしたサイズ感が欲しかったんです。
紙工視点に参加して得た視点
――「紙工視点 2022」の経験は、これから自分の仕事にどう影響しそうでしょう。今回、得た視点などはありましたか?
五十嵐:あらためて、ちゃんと自分の仕事を振り返ったな、という感じがします。仕事の種類も普段とは違ったので、「いつもはどう考えていたのか」ということを確認する機会が今までなかったので、そういう意味ではすごく良かったです。
いつもは「他の人がまず何をやりたいか」「どういうイメージのものを作りたいか」ということを聞きながら「じゃあ、どう作れるか?」ということを考える、という流れになるんですけど。
今回は、初めの「何を作りたいか?」みたいなことを考えなきゃいけなくて。そのポジションの違いというか、考える場所の違いは、今後の仕事においても、すごく役に立つだろうなと思っています。
逆に「どういうものを作るか?」みたいに考える過程は、振り返ると普段と同じことをしていたなというちょっとした発見になって。とりあえず、可能性のあるものをいっぱい作ってみて、「どう広げていくか?」あるいは「絞っていくか」というのは、普段の図面の引き方でもしていて、「無意識にやっていた作業は、結局、いつもの自分のやり方になっていたな」というのは、あらめて気付いたことでした。
――すると、わりと自己確認の場にもなったんですね。
五十嵐:そうです、すごく自分自身の確認になりました。それがたぶん、次に何か繋がるんだろうなと。
――会場構成を担当する「紙工視点2022」展の見どころは、いかがですか。
五十嵐:1つは、紙の特性をちゃんと使った作り方でしょうか。乗せる什器も、「紙だから」みたいな使い方、見せ方ができると良いなとは思っています。来た人は、もちろんその上の展示物、乗っているものを見てほしいんですけど、それ以外でも楽しめる見え方になるといいなという感じです。
今までの皆さんの考えてきたプロセスを展示して、その商品も置いて。基本的には「紙で台を作る」という前提で作りたいというのがありました。
――この「PAPERBIRD」を、どんな人に買ってもらいたいですか。
五十嵐:もちろん小さい子に欲しいと思ってもらえるのも嬉しいんですけど、やっぱり大人の人に欲しいと思ってもらえたら嬉しいなと思っています。
ちょっと難しめになっているというのも1つあるんですけど、それは「ちゃんと頑張って作る」「時間を掛けて作る」みたいなことをしてもらえると嬉しいなと思って。「どうやって作れば綺麗に作れるのか?」というのを考えるという意味でも、大人の人にやってもらえたらいいなと思うし。
ただ「大人だからできる」「子どもだからできない」というのではないと思っていて、子どもでも考えてやれば全然できるし、むしろ小さいパーツなんかは子どものほうが作りやすいかもしれないです。そういう「この年齢だからできる」みたいな枠にとらわれずに「頑張ればできる」みたいな人であれば、どなたでも(笑)。
――パッケージを見ると、両面展開のようですね。裏面はあえてブロックの写真を前面に出した。
五十嵐:そうです。一応、商品名が「PAPERBIRD」なので、BIRDとしての完成形を表面に印刷して。ただ、それだけじゃない遊び方もしてもらいたいと思ったので。裏面はBIRDではない積み方の絵を入れています。
本当は、裏面は「ペーパーブロック」という名前にしようかと思ったんですけど、「名前が2つあると混乱するのでダメです」と言われてしまい(笑)。ネーミングは「PAPERBIRD」にして、ブロックみたいな遊び方は、こちらから言わなくても自然とそういう流れになるのではないか、という期待も込めて、そこの名前は外しています。
「PAPERBIRD」パッケージ
五十嵐:今回、大変なところもありましたけど、自分としては「ちゃんと作る過程を自分なりにすごい楽しめた」というのが良かったです。
――製品が完成するまでの苦労や楽しさを、買った人が追体験できるようなプロダクトになりましたね。
五十嵐:そうですね。最初はすごい恐怖でした。何もゴールが見えなくて「本当にできるのか」みたいに思えてきて。でも、最後はちゃんと形にするところまでを楽しめました。あとは、買っていただいた方が楽しんでくださるといいなと思っています!
<インタビューを終えて>
五十嵐さんは「PAPERBIRD」の購入者に対して、あえて製作の難易度を上げた狙いがあります。実際に3連のパーツを組むのに、最初は15分ほどかかりました。手を動かしていくと、意味をなさなかった紙のかたまりが、だんだんと形になっていくのは不思議な体験。まるで、受精卵の細胞分裂を思わせるのも、生き物の名前を冠したプロダクトになった影響かもしれません。
インタビュー・文:神吉 弘邦
紙工視点2022 新作発表会およびギャラリートークイベント
会期
2022年9月16日(金) - 9月30日(金)
*最終日は17時まで
場所
立川・GREEN SPRINGS「SUPER PAPER MARKET」
東京都立川市緑町 3-1 GREEN SPRINGS E2 209
(JR 立川駅北口徒歩8分 )
営業時間:11:00 - 19:00 休業日:なし
ギャラリートークイベント
2022年9月22日 (木)15:00 - 17:00
開催場所:SUPER PAPER MARKET 内「紙工視点 2022」展示会場および TOKYO 創業ステーション TAMA
登壇:大野友資、パーフェクトロン(クワクボリョウタ+山口レイコ)、五十嵐瑠衣
進行:岡崎智弘、山田明良
*先着30名様まで
*参加無料
*事前申し込みはこちらから
【紙工視点2022】から発表された製品は
福永紙工 ネットショップ「SUPER PAPER MARKET」でご購入いただけます。